医療におけるグローバル人材の必要性
Global Perspectives in Health Professional Education
日本は内視鏡検査などで世界の医療をリードする一方、
生命科学研究・国際保健・医療産業分野では
グローバル化が進む世界でプレゼンスが失われつつあります。
日本が今後主要先進国として医学/医療の分野で世界を牽引していくために
中心的役割を担うリーダーが、今必要とされています。
日本が国内での対応に追われ、海外への視野を閉ざしていた、バブル崩壊後の20 年間に、積極的な海外の国々は市場や事業運営においても、世界へとフィールドを広げていきました。そして現在先進国と発展途上国との格差はさらに狭まり、国家間の数々の垣根も徐々に取り払われてきています。今こそ日本も積極的な世界展開を図り、躍進を遂げなければ、もはや主要国としての地位を保つことはできません。
にもかかわらず、現状はどうでしょうか。日本から海外への留学者数は減少する一方で、海外勤務を希望しない若手社員は増加しているといいます。他のアジア諸国が積極的に海外留学数を増やしている中で、日本はむしろ遅れをとっているのです。
医療においても例外ではありません。
確かに日本は、がん治療や内視鏡検査などでは高度な医療水準を保有し、人口100万人当たりの医療機器保有台数も他国に比べると群を抜いて高い国でもあります。そして、これら先進機器に加え、世界に誇れる国民皆保険制度により、世界最高水準の平均寿命を実現しています。しかし、情報技術の革新と人の移動の増加により医療の国際標準化のニーズが高まりつつあるなか、日本の医療現場の実情はどうでしょうか。以前より大病院では「3時間待ちの3分診療」と揶揄されてきましたが、高齢化により医療保険財政がますます逼迫し、医療提供者の勤務はさらなる過酷化が予想される中で、国際標準に沿った質の高い医療を提供するのは容易ではありません。実際、医療の国際標準化を目的とした国際的病院評価認証機関(Joint Commission International, JCI)により認証を受けた国内医療機関は2013年3月時点でたった7病院しかありません。一方、他のアジア諸国では、既に多くの医療機関が認証を受けています。
また、提供される医療の国際標準化の遅れだけでなく、医療を創りだす生命科学研究、国際保健・医療政策、そして医療産業の分野においては、下記にも示す通り、グローバルな舞台において日本のプレゼンスが失われつつあります。
生命科学研究
現在日本は医薬品・医療機器分野でも輸入超過に陥っており、その基盤となる基礎研究においての国際競争力が低下している。研究活動のアウトプットとして論文数をみると日本は米中英独に次いで第5位まで落ち込んでおり、各分野のTop10%論文数シェアでは日本の低迷はさらに顕著であり(米英独中仏に次ぎ第6位)、また国際共著率も低い(英仏独米に次ぎ第5位)。さらに、大学院生や教員において内向き思考の広がりがあり、海外研究留学希望者数も減少している。
国際保健/医療政策
日本は国連拠出金が米国に次いで第2位であるにもかかわらず、他の国連機関と同様に、世界保健機構(WHO)においても日本人スタッフ数は、加盟国中でもかなり低い(人口や拠出金額から概算される望ましい職員数の23-31%程度)。今後本分野におけるリーダーの輩出が喫緊の課題である。
医療産業
近年アジア各国では医療観光産業が発展しているが、日本にはそれらの国を上回る高い医療技術・サービスがありながら大きく出遅れている。政府の新成長戦略のもと観光庁が進める医療観光等医療産業分野の発展のためには、高い英語運用力のもと質の高い医療サービスを提供できる人材育成が遅れている。
このような、日本の医療における国際標準化の遅れ、そして医療の革新・医療政策・医療産業という分野での日本のプレゼンスの低下には、世界の共通言語である英語の運用力が低いことに加え、世界という広い視野を獲得した上での世界において日本が果たすべき役割の理解、そしてその上で複雑な国際医学・医療問題の解決のために様々な文化背景の相手と建設的に議論・恊働できる高い教養と知的スキル・対人スキル・リーダーシップスキルの欠如も起因しているでしょう。
つまり、わが国の医療分野におけるグローバル化とは、医療における国際標準化、そして医療の革新・医療政策・医療産業という分野での日本の貢献度を高めることであり、その実現のために、上述した資質を持つ医療人を育成する必要が急務となのです。